誰にでもいえる
​自他境界のお話

自他境界とは?

 他者との関わりにおいてトラブルに発展しやすいとき、『自他境界』という言葉でトラブルを紐解くことがあります。

これは精神医学などに大きな影響を与えた学問『精神分析学』からの言葉になります。

自他境界とは、『自分と他者は、別のものである』という境目又は輪郭のようなものです。

これは肉体的に別物であるという目で見てわかる理解のことではなく、心の機能として、自分とそれ以外のモノという区別が意識せずとも成り立たせることができる能力のようなものを指します。

 

この自他境界があいまいになっていることで、人間関係に支障をきたしやすくなったり、心の不安定さを巻き起こしたりします。

 

ここでいう『自他境界があいまい』とは、『自分と周りの人たち(自分以外のすべて)は、別のものであるという境目』が頭で理解している・していないに関わらず、明確に把握できない状態を指すものです。

 

境目があいまいだと『自分と他者は別である』ということが感覚として当たり前にならないまま、社会生活を送ることになります。これは日常生活の中で様々な不安や葛藤の抱きやすさにつながります。

誰にでもある“あいまいさ”

自他境界のあいまいさは発達障害の特徴の1つといわれています。

ただ、注意が必要なのは『発達障害でないから必ず自他境界がきっちり分かれている』ということではないということです。

一説では、『そもそも日本の文化では、他人の中に自己を見いだす価値観が強いため、自他境界があいまいになりやすい』というものもあります。

それに加えて、自分と他者が明確な人でも、ストレスや過労などによってどんどん自他境界があいまいな状態になることがあります。また、共感性の高い人も、他者の感情に巻き込まれやすい場合があり、その結果として自他境界があいまいになりやすいというケースもあります。

うつ病のケースで自責が強い状態を例にすると、以前なら『それはあなたの責任』と言えたことも、『もしかして自分に責任があるのでは?』という思考になっていくこともあります。

そして忘れてはならないのが、『個々人にある価値観・文化的背景』です。軽度のあいまいさは脳の働き具合に関わらず、そもそもの価値基準などによっても『どこまでを自分のものとする』かに、個人差が出てきます。

友人関係で、友人のものを断りなく使う方もいれば、『親友だろうが自分のものは自分だけのもの』という考えの方もいます。

そして、『恋人なんだからわかってくれて当然』と思う方もいれば、『「恋人とは言え相手は相手の人生を歩んでいるしなぁ…』と思う方もいるはずです。

このように、様々な側面を考えた時、自他境界のあいまいさは少なからず誰にでも生じる可能性があり、程度の問題と言えそうです。

葛藤や困難さの解消のためには、その自他境界のあいまいさの度合いによって明確にする作業量が必要になります。

自他境界があいまいだと起きやすいこと

自他境界があいまいだと、その分、継続的な対人関係が難しくなります。

  1. 「自分のことをわかってもらえない」や「自分がどうしたらいいかわからない」からくる葛藤。

  2. 相手に対応しようと必死になることからくる焦燥感・強い不安。

  3. 傷つきやすさ。

 

これらにより感情的反応が増していき、思考にも影響を与えます。

 

結果として、一人でいた方がいいという結論を出して破壊的な行動に出たり、『共依存』という社会生活を送るうえで悪循環を生む関係性ができてしまうこともあります。

 

また、対人関係とは別に、セルフコントロールが難しくなっていくことで『現状をうがらずに把握する』ことにも影響し、目の前の課題解決がしづらくなるということにもつながります。

自他境界のあいまいさ2パターン

自他境界のあいまいさは、大きく2種類の傾向に分けることができます。

a.自分の領域を“他者にまで”広げる傾向

b.他者の領域を“自分にまで”広げる傾向

a.自分の領域を“他者にまで”広げる傾向

《a.自分の領域を“他人にまで”広げる傾向》は、他者とさまざまな場面で接し『感じる・思考する』なかで、『他者は自分と違う人生経験やモノの見方から、自分とは違う考え方・感じ方をするかもしれない』という前提が思い浮かびづらいという状態を指します。

『他者には別の考え方があり、自分と違っていてもいいし、自分にはコントロールできない』という感覚を前提に考えることが難しい状態ともいえます。

例えば、以下のような思い込みをしやすくなります。

 

  1. 「自分が考えていることはみんなにとっても絶対に正しい」

  2. 「自分が考えていることは、相手も考えているはずだ」

  3. 「自分がこんなに困っているんだから、気持ちは相手に伝わるはずだ」

  4. 「自分のルールは相手にとっても守らなくればならないルールだ」

 など。

それによって、下記のようなケースに発展することもあります。

・他者の都合やルールを、一方的に自分の都合に合わせようとする

・他者の価値観や信条があることに気づかず、自分の価値観や信条に反する他者の言動を否定する。

・他者の考えと自分の考えが区別できず、自分の考えは当然他人もわかってくれるという前提で話をする。

実際には相手は自分と同じ考えや価値観と同じにはならないので、不要な怒りや不安、葛藤を抱えやすくなります。

b.他者の領域を“自分にまで”広げる傾向

《b.他者の領域を“自分にまで”広げる傾向》では、自分と他者の区別がつかないがゆえに、他者の影響を受けやすいという状態を指します。

それによって、下記のようなケースに発展することもあります。

・他人の考えと自分の考えが区別できず、他人の考えをそのまま受け入れてしまう

・他人の問題や責任と自分の問題や責任の区別がつかず、他人の不始末の責任を引き受けてしまう

・相手の要求をうけいれてしまい嫌だと言えない、要求をはねつけることができない。

・相手の言いなりになり、傷つけられ、他者が怖くなってしまう。

 自分と他者は別のものだという感覚に基づいていないために、他者、特に周りのことを考えない「侵入的な人」の対応に追われやすい傾向があります。

自他境界のあいまいさによるトラブル

自他境界のあいまいさが引き起こすトラブルは、「人間関係のトラブル」そして「葛藤を含む生きづらさ」です。

《a.自分の領域を“他者にまで”広げる傾向》は、『あなたにはあなたの考えがある、私には私の考えがある』ということへの感覚的理解が苦手になります。

例えば、自分と相手の考えが同じだと思って話していると、相手の言葉を相手の考えではなく自分の考えで解釈をしやすくなります。自分の考えや解釈をベースに相手と話を続けていると、「自分と同じ考え」と信じていた相手が、「自分の考えとは反する」行動・発言をすると動揺します。そして「あなたは間違っている/おかしい」という具合に相手の意見を認めにくく、否定的な態度になっていきます。これは相手から反感をかいやすくなります。『こちらにはこちらの考えがありますよ!』という感じです。

そうなってくるとお互いに悪感情を抱くこともあります。

このような人間関係のトラブルが繰り返されることで、警戒心を強くしていきます。そうして以下に発展することも考えられます。

・他者をコントロールしようと試みる。

・相手の非を見つけて一方的に責める。

・自分の考えが正しいと思うためにも、相手を論破しようとする。

 

また、自他境界があいまいな状態で、他者から自分と違う意見を言われると「否定されている・責められている」と感じやすくなるパターンもあります。 

そうしたパターンでは以下のような感情的体験します。

・どうせ理解されない。

・みんなが自分を責める。

こうした思いから苦しいという感情的反応が大きくなり、対人関係に自信を持てなくなっていきます。

発展していくと対人関係そのものを避けたり、『自分をなくして相手の言いなりになる』といった状態になる場合もあります。

「自分」をなくして他者の言いなりになる状態

こちらは、《b.他人の領域を“自分にまで”広げる傾向》に見られがちなトラブルです。

例えば

・批判・指摘を鵜呑みにしてしまう。

・相手の問題を自分の問題としてしまう。

・何でもかんでもハッキリ言う人の決定に従っている。

などです。

この傾向は自分を見失いやすく、自分の感情に気付きにくくなったり、自分で考えるということが困難になるケースもあります。

他者の課題や他者の仕事の責任などの自分以外のことに費やす時間が長くなりがちで、自分のケアを後回しにする傾向があります。そうなると時間的余裕・体力的余裕がなくなり、自分自身を消耗させてしまいます。

上記のように、他人の責任を引き受ける行為は、様々なメンタルヘルスの問題を起こすトリガーになる可能性があります。

ストレスや過労からによる食行動の問題、睡眠障害、不安障害などを発症することもあります。

また深刻なケースになると、うつ病・パニック障害・適応障害などによって、就労が難しくなるケースも考えられるでしょう。

さらに共依存関係は、依存関係の相手にも悪い影響を及ぼします。

パーソナリティがどんどん不安定になっていき、重い精神疾患を引き起こすことも十分に考えられます。

共依存は当事者同士では気づきにくい性質があるので、抜け出しにくくなる前に共依存関係を解消することが望ましいです。

『部下の教育』『大切な人を守ろう/支えよう』とした時に、『他人の行動や責任を自分の中に受け入れてしまう傾向』を感じ取ったら、自他境界があいまいになっているサインと思った方が無難かもしれません。

自分と他人の境界線を引くために

「人間関係のトラブル」そして「葛藤を含む生きづらさ」を解決するためには、根本的な課題である“自他境界のあいまいさ”に働きかける必要性があります。

 自他境界は「これは自分のことで、あれは他者のこと」という感覚的なものです。

なので、自他境界を明確にするには、その感覚を養っていく必要があります。

 ここでは2つの方法を簡単にご紹介します。

​ まず1つ目は、『“感情筆記”の練習をする』というものです。

専用のノートを買ってきて、一日10ページ以上感情筆記を行うといいでしょう。

感情筆記を簡単に説明すると、『“今この瞬間、感じ・思い・考えること”を文字にしていく作業』というものです。

この作業によってまず『自分の本音を取り戻す』ことをしていきます。

できれば週に4日間を6ヶ月以上継続してみるといいかもしれません。『精神的な安定』や『自分で考えられる状態』を作っていけます。

続いて2つ目は、自律訓練法やヨガの呼吸法で、外に向きがちな注意の先を、自分自身の体に向けるトレーニングが必要です。

Youtubeに『自律訓練法』『ヨガ』のやり方を紹介している方が多くいらっしゃるので、そちらを参考に習得して、週に4日間を6ヶ月以上実践&継続されると実感を伴いやすくなります。

この2つの方法の効果は、多方面からエビデンスが報告されているので、取り組む価値は大きいと言えそうです。

デメリットをしいてあげると、人によって慣れるまでに期間を要することです。

ただ、慣れていくことで効果を出していける類いのものなので、その期間も大切な下地になります。

また、くれぐれも根を詰めてやりすぎてしまうと逆効果なので注意が必要です。

ここに紹介した方法以外にも、世の中には『療法』『トレーニング/訓練』として様々なものがあります。

ご自分にあったものを見つけてみるのもいいかもしれませんね。

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